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ハヌカ 2006年12月
ユダヤ教ではユダヤ歴「キスレブ」の月(西洋暦では12月に相当)の25日から8日間、「ハヌカ」と呼ばれる祭りを祝います。ハヌカは別名「神殿清めの祭り」とも呼ばれ、その年によってクリスマスと重なったりすることもありますが今年は12月15日の日没がその第一日目になります。ハヌカの最初の日の日没には「ハニキヤ」と呼ばれる8本の燭台の一本目にろうそくを灯します。それからハヌカのお祈りをしたあとポテトラトケス(ポテトパンケーキとも呼ばれます)など、油を使って料理したものを食べます。
ユダヤ教のシンボルであるメノラは7本の燭台ですが、「ハヌキヤ」(ハヌカ・メノラとも呼ばれます)は、左右4本に分かれていてその真ん中に「シャマシュ」と呼ばれる種火がありますので実際には9本の燭台です。この燭台に1日目は1本のローソクと種火であわせて2本、2日目は2本のローソクと種火で3本というように増やしていき、最後の夜に8本のローソクと種火で9本が灯されるという訳です。食卓でのローソクのほか、家庭によっては窓際にプラスチック製で豆電球がキャンドルの形をしたハヌキヤを飾る所もありますので、ユダヤ人の多い郊外にお住の方はクリスマスの豪華なイルミネーションに囲まれると何となく冴えない感じのする小さなキャンドルの明かりをごらんになった方も多いのではないでしょうか。
ハヌカはロシュ・ハシャナー、ヨム・キプール、パスオーバのように旧約聖書の中の物語ではなく、紀元前二世紀頃のイスラエルの地(パレスチナ)が歴史の背景になっています。当時、イスラエルのユダヤ人はシリアのギリシア人の支配下にあり、ユダヤ教を禁じ、ヘレニズム文明を押し付ける統治者の圧制に喘いでいました。特にアンティオクス4世は安息日を守ることやトーラの勉強を禁じ、神殿にゼウス像を持ち込んだりしましたので、これ以上の圧制は堪えられないと、ユダヤ人たちはハスモン家のマタティアとその息子たちを中心に武装蜂起を起こします。その結果、反乱軍は強力なギリシア軍に打ち勝ち、紀元前一六五年、エルサレム神殿を解放しました。
神殿を占拠していたギリシア軍は燭台を灯す油の壷をみな破壊していましたが、解放軍は幸い一つ残されていた油壼を見つけます。その油は一日分にも満たなかったのですが灯してみると奇跡的に八日間も燃え続けたというのです。ハヌカが「神殿清めの祭り」と言うのはこのためです。「光の祭り」という呼び方もあります。ハヌカを8日間祝い、その間油を使った食べ物を食べるのもこうした歴史に由来しています。
ハヌカの間、子供たちはそれぞれのプレゼントの他にユダヤ教会や親戚の人たちからドレイドルと呼ばれる四角錐の独楽とハヌカ・ゲルトという丸い金貨(中はチョコレート)をもらいます。独楽の上には「ネス・ガドール・ハヤ・シャム(偉大な奇跡がそこに起きた)」の頭文字となるヘブライ文字、ヌン、ギメル、ヘー、シンという字(右図)が刻まれていています。子供たちはこれを回して何の文字が出るかでコインやお菓子などをやり取りして遊び、(日本のさいころ遊びに似ています)そうした遊びを通して自分たちの歴史を学んでいくわけです。我が家でも寒い冬の日、(ハヌカの頃はたいてい外は厳しい寒さです)この時期暖炉の前で子供たちがよく独楽を回して遊んでいたことを思い出します。
ハヌカとクリスマスは前述したように年によっては重なることがありますが、宗教的にも歴史の上でも関係があるわけではありません。ただユダヤ教の年中行事の中ではそれほど重要ではなかったハヌカが近年ユダヤ人家庭で大規模に祝われるようになったのは、年々商業化されていく感のあるクリスマスに影響を受けている面も大きいようです。アメリカのように大多数がキリスト教徒の国では、そのほとんどがクリスマスにはクリスマスツリーを飾り、親戚一同が集まって食事をしたりプレゼントを交換する「楽しい日」ですので、クリスマスを祝わない人たちにとっては何となく寂しい面もあるわけです。そこでそんな環境の中で育つ子供たちがキリスト教徒の子供たちを羨ましく思ったりしないように、たまたま同じ頃にやってくる「ハヌカ」の重要性を歴史的に見直し、楽しい祝い方を工夫したりプレゼントをしたりする習慣が確立していったと言えるようです。イスラエルではアメリカと違ってこの時期のプレゼントの習慣はないとか。
クリスマスといえば、日本ではキリスト教徒でなくてもクリスマスを祝い子供たちにサンタクロースからとして贈り物をする家庭が多いようですが、キリストを救世主とは認めていないユダヤ人はクリスマスを祝いません。もちろん人それぞれで宗教的な意味あいからではなく単に季節の祭りとしてクリスマスツリーを飾ったりする人はいます。キリスト教徒とユダヤ教徒の人が結婚している家庭ではクリスマスツリーの上にダビデの星を飾ったりする人もいます。しかし、そうした人たちは例外で一般的にユダヤ人はクリスマスを祝いませんので、例えば「メリー・クリスマス」などと書かれたカードはユダヤ系の人には出さない方が無難です。もちろんカードをもらって気分を害する人はいないでしょうけれど、心中非キリスト教徒に対する感受性のなさ、或いは無知さを疑っている人はいるかも知れません。これはユダヤ人に限らずイスラム教徒の人たちにもいえることですが、一般的にいって同じ非キリスト教徒といっても日本人が感じているクリスマスに対する思いと彼らのそれには大きな隔たりがあります。日本人の宗教に対する寛容さはユダヤ系の人たちに一種不思議な思いを抱かせる面があるようで、駐在員の方々の家に飾ってあるクリスマスツリーを見て、「クリスチャンでもない人たちがどうして?」などと聞かれたことが何回かありました。そんなわけでアメリカにはクリスマスを祝わない人たちも少なくありませんので例えば日本からカードを送られたりする場合にも相手が確実にそうであることが分かっている場合を除いてはクリスマスをうたった宗教色の濃いカードはさけてシーズンズ・カードなどにされることをおすすめします。アメリカでも最近は年末のセールスなど、従来の「クリスマス・セール」から「ホリディ・セール」に呼び代えたりしているチェーンストアーが増えています。
スカースデールではクリスマスの頃になると駅前の公園にクレッシ(キリスト生誕の場面を再現した彫刻物)がおかれますが、ここが自治体の所有する土地であるところから公の場であるこうした場所で一定の宗教的モチーフを持った展示物をおくのは多様文化を誇る町の精神にあわないとして反対する人もいます。この件は最高裁判所まで持ち込まれたこともありましたが、「言論の自由」を主張する人たちの言い分が通ってクレッシはいまでもこの時期町の風物詩といった感があります。クレッシに対抗して駅前に隣接する公園に大きなハニキアを飾るグループもあります。(スカースデールのクレッシ論争)
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ユダヤ歳時記
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